ニュースサイトJANJANが報道した記者会見の内容
耐震強度偽装事件で、元指定確認検査機関(※1)のイーホームズ代表取締役の藤田東吾氏が11月9日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見した。藤田氏は会見で、今年3月に小泉純一郎首相(当時)に送ったという電子メールと、ヒューザー元社長・小嶋進被告の公判に関して東京地裁・毛利晴光裁判長に宛てた上申書を配布した。藤田氏は「耐震強度偽装問題の本質は、大臣認定の構造計算プログラム(※2)にある」と強調した。
一方、建築基準法違反や議院証言法違反などの罪に問われた元1級建築士・姉歯秀次被告の公判が同日結審した。公判を傍聴した藤田氏は、東京地裁前で「この事件は日本を覆う闇。いったい誰が悪いと思いますか。日本のマスコミは報道できないから、今日、日本外国特派員協会で記者会見します。ぜひ皆さんに真実を報道していただきたいと思います」と語った。
●新たに発覚した偽装物件「隠蔽された」
国交省は昨年11月、「姉歯被告らによる耐震強度偽装物件は21棟だった」と発表したが、藤田氏は会見で「イーホームズの調査によって、財団法人日本建築センター、平塚市、愛知県、三重県などが確認検査した物件でも耐震強度が偽装された物件が発見された」と主張した。だが、国交省にその事実を伝えても「偽装物件は21棟のみ」と取り合ってもらえなかったという。この情報をマスコミに発表することで、ようやく偽装が認知され、藤田氏は「雨後のたけのこのように偽装物件が発見され、結局姉歯物件だけで100棟を超えた」と話した。
その後のイーホームズの調査によると、今年1〜2月にアップルガーデン若葉駅前(埼玉県鶴ケ島市)、アパガーデンパレス成田(千葉県成田市)、エグゼプリュート大師駅前(神奈川県川崎市)の3物件で耐震強度偽装を発見。これらを設計、建築・販売したアパグループ、藤光建設、田村水落の3社の関与を追及し、すでに国交省や自治体には報告しているという。
●偽装物件はもっとある 真実の報道を
また、藤田氏は5月22日(※3)に国交省が発表した「指定確認検査機関の確認物件から抽出したマンション等103件の調査について」で、非姉歯物件103棟のうち、15%にあたる15棟で「構造図と構造計算書の不整合や、不自然な構造計算のモデル化など、構造計算に疑問のある点があり、強度不足の可能性があることが判明した」ことにも言及した。
藤田氏は「日本には年間70〜75万棟の建築物が建つ。このうち15%の構造計算書が偽装されていたとすれば、年間10万棟、平成元年から平成17年までの間だけでも200万棟を超す構造計算書が偽装された建築物があるということになる。姉歯さんは偽装をした1人の設計士に過ぎない。国民の命と財産が危険にさらされている。早急な全棟検査が必要だ」と主張する。
偽装事件は終結していないことを何度も国交省に指摘したという藤田氏。だが、国交省が取り合わない限りは首相に伝えるしかないと感じ、「この事件の本質は官僚や公務員の行ってきた制度上の欠陥にあるのだ」と小泉前首相に3月15日にメールで伝えたという。「同じ内容のメールを当時の杉浦正健法務相、北側一雄国交相、村上周三日本建築学会会長、和田章東京工業大学教授にも送信し、村上先生、和田先生には『事実を解明してがんばってください』という旨の返信をもらったが、他の3名からは返信がなかった。仕方がないので内閣府に電話した」。
一方、藤田氏は今年4月、イーホームズの架空増資事件で、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪に問われ逮捕される。
藤田氏は10月18日の懲役1年6カ月執行猶予3年という判決後、エグゼプリュート大師駅前の工事現場を見るため川崎市を訪れた。すでに竣工間近で住民への引き渡しも行われようとしている状況を見た藤田氏は、この状況を安倍晋三首相に伝えるため首相官邸へ連絡し、手元に一部だけ残っていた耐震強度偽装の“証拠”を持って10月20日に官邸を訪れたという。「しかし、官邸職員や警察は『絶対に入れない』と断言した。僕は2時間半、官邸前にいて、100人近い報道陣がその一部始終を撮影していたのに、『殴り込みを掛けた』だの『突然行った』だのの報道をしただけだった」。
●姉歯氏は責任主体ではない
藤田氏は、大臣認定プログラムで耐震強度の偽装が可能であることは制度上の欠陥であり、それと同時に事件を起こした者としての責任は宅建業法に基づく販売主(デベロッパー)、建設業法に基づく建設業者にあると指摘する。また、昨年10月に国交省が耐震偽装を発表した当初は、イーホームズの技術スタッフと国交省の建築指導課との会議の間で「大臣認定プログラムの問題である」という共通認識があったという。しかし、11月17日に行われた佐藤信秋国土交通事務次官による報道発表(姉歯(あねは)建築設計事務所による構造計算書の偽造とその対応について)は、姉歯建築設計事務所と指定確認検査機関に責任をかぶせる形のものになっていたと指摘する(※4)。
「法の観点から言えば設計事務所は責任主体ではない。その設計事務所の更に下請けであるいち構造設計士の姉歯秀次さんに関しては、法律上の責任主体ではまったくない。にもかかわらず、11月17日の報道発表資料では、大臣認定プログラムや宅建業法、建設業法の責任には一切触れず、姉歯さんとイーホームズの責任として発表された。耐震強度が偽装された物件も21棟に限定した」
こうしたことをずっと訴えてきたという藤田氏。しかし、マスコミ報道では核心部分に触れられることはほとんどなかったという。
「この事件は国家が自分たちのミスを認めて直せばよいだけのこと。根本的な問題は、隠蔽してしまう、という日本の体質ではないか。この事件が発覚してから関係する複数の人が亡くなっている(※5)。日本では政治もマスメディアも機能しない。この状況を伝えるには外国特派員協会しかないと思った。日本は重要な岐路に立たされている。日本のマスコミが真のジャーナリストかどうかを試されていると思う」。
藤田氏は最後にこう述べて記者会見を締めくくった。
◇
※1
建築しようとしている建物が建築基準法などの各種法令に適合しているかを審査する「建築確認・検査」を行う機関。1998年の建築基準法改正により、それまで特定行政庁が行っていた建築確認・検査を、国土交通大臣または都道府県知事の指定を受けた民間機関も行えるようになった
※2
国土交通省大臣の認定書を取得した構造計算ソフト(プログラム)のこと。特定行政庁が行っていた建築確認業務を民間でも可能にするために導入された制度
※3
藤田氏によれば「5月22日」ということだが、国交省の報道発表資料の日付は「5月12日」となっている
※4
国交省の報道発表資料「姉歯(あねは)建築設計事務所による構造計算書の偽造とその対応について」の【2(4)処分・告発】には以下のように書かれている。
(1)基準法違反(建築基準法第20条(構造規定)違反)等について、姉歯建築設計事務所をはじめとする建築基準法上の設計者の告発(準備中)。
(2)建築士及び建築士事務所について、国土交通省、東京都、千葉県が連携して、建築士法上の厳正な処分を実施(事実関係を確認後速やかに実施)。
(3)不適切な確認検査を行った指定確認検査機関に対する監督処分(同上)。
(4)また今後の調査の進展等に応じ、必要があれば他法令についても随時適用(同上)。
※5
藤田氏は「因果関係は不明」としながらも、森田設計事務所代表の建築士森田信秀氏、朝日新聞社の耐震強度偽装担当デスク、エイチ・エス証券副社長の野口英昭氏、姉歯秀次被告の妻らの死について触れた
(JANJAN編集部)