デジタル時代に学歴は要らない
トランス・ワールド・エアラインのコンピューター就任を馘首(くび)になったロバート・クランドールはソフト作成という分野では使いものにならなくなりました。
コンピューター関係の方は分かっていただけると思いますが、コンピューターのソフトをつくる方は普通15〜16年経つと、例えば高校を卒業してなら33歳前後、大学卒業なら37歳前後になるとソフトをつくる能力が低下するといわれています。この能力が低下するという問題は年齢にはあまり関係ありません。
40歳くらいの方が初めてコンピューターソフトをつくるようになったとすれば55歳前後になるとやはり使いものにならなくなります。30歳の方なら45歳、20歳の方なら35歳前後が目安になるそうです。
なぜかといえば、簡単な理由です。知識が豊富になってどんどん詰まって行きますと、柔軟な考え方ができなくなってきます。コンピューターソフトについて多くの知識が詰まると、知識が邪魔をして固定観念に負けてしまって創造力がだんだん低下します。知識が邪魔をするというのはデジタル時代の一つの特徴です。
デジタル時代(高度情報社会)では学歴というものは要らなくなってしまいます。少なくとも工業社会(従来)までの学歴は要らなくなります。
現在の工業社会では良い学歴、例えば東京大学卒業といった学歴を持っていればいいところへ就職ができるというのが定説です。
東大を出たということは世間一般では良い学歴であり素晴らしいと評価されます。この東大出身の方のどこが優れているかと言いますと、たくさんの知識が詰まっているということです。だから素晴らしいと言えるのです。
当然、東大を卒業するにはまず入学試験で合格しなければなりません。この試験はマークシート方式という名で呼ばれる試験でいわば○×式です。
あるいは三者択一(あるいは五者択一)ということなんですが、この方式はその方が持っている知識を調べることが主となっています。
考える力、創造する力をどの程度持っているか、ということを調べるのは短時間のペーパーテストでは難しいのです。
そうすれば、どうしても入学試験はその方が持っている知識レベルがどの程度かということが重要な課題となります。
ところが、近未来に到来するデジタル社会においては、知識がたくさんある方が、入社した会社を潰してしまう。あるいは、知識をたくさんもった方が国のお役人になると国を滅ぼしてしまうといったことが起こります。
なぜそうなるのか?と疑問に思う方はデジタル時代の真の姿を知ってもらえば理解いただけると確信します。
知識を蓄積することはコンピューターに任せた方がいいかもしれません。
むやみやたらに頭脳に知識を詰め込むことは必要がなくなってくるでしょう。
では、いったい人間は何をすれば良いのでしょうか?
それはものを考えること、すなわち「Thinking」することを人間の仕事と考えていくこと、創造することがこれからの時代は大切なのではないかと思います。
なぜ、知識がたくさんあるとダメなのか、と言いますと、非常にしなやかで柔軟な考え方ができなくなってくるからです。
例えば、大東亜戦争(太平洋戦争)が終わって既に65年になります。
アメリカでは政治に関する秘密事項は30年で情報公開します。
軍事に関する秘密事項は50年で情報公開するようになっています。
太平洋戦争の軍事に関する秘密事項がワシントンで情報公開され、人々の関心を呼んでいます。その中でびっくりすることは、戦争中にアメリカは既にコンピューターを最大限に利用していたということです。
このことは想像されていましたが、これまで知らされていませんでした。
我々は太平洋戦争であまりか軍が優れていたことはレーダーがあったからだと聞いていましたが、単にレーダーだけでなくコンピューターもあったからだということです。
当時、日本のプロの軍人は陸軍士官学校や海軍兵学校の出身者の方々ですが、これらの学校に合格することは今の東京大学に入学するのと同じように大変難しいものでした。
陸軍士官学校や海軍兵学校では心身ともに健全でなければなりませんでしたが、優秀な記憶力を持つ方々が士官や将校を養成する学校に入学して知識を詰め込まれたのです。
アメリカでは、日本の優秀な将校たちが教わったであろう、と思われる軍事上の作戦などをコンピューターに入力して、それを分析しながら作戦を立てていたということです。
優秀という基準は記憶力が優秀ということで、優秀すぎて忘れないということにも通じます。そこに悲劇が生まれます。知識や記憶だけが豊富な者の時代はもうすぐ終わります。(つづく)