戦略主義と戦術主義
戦後、日本は大きな経済不況を6回体験しています。
ニクソンショック、第1次オイルショック、第2次オイルショック、プラザ合意による円高、バブル崩壊による構造不況、そして昨年のリーマンブラザーの倒産が引き金になった金融経済崩壊ショックです。
いずれの不況の時でも約1割の企業は業績をあげています。
2〜3割の企業はつぶれています。
そのほか大部分の企業はリストラ(企業再構築)や人員削減(雇用契約解除)をやったり、多角経営から手を引いて本業に回帰したりしながら、頑張って、頑張って、来るべき好況の到来が一日も早からんことを願いながらその日を待っています。
ただ、問題なのは次の好況期に先頭で行くか、後からついて行くかの違いです。
先頭で行くためには戦術主義ではだめで、戦略主義でなければなりません。
戦略主義とは何かといいますと「次の時代はどうなるのか?」という時代変化がしっかり読めるかどうかということです。
きちんと次の時代が読めた者が先頭で渡ることができます。
戦略は来るべき次の時代に備えて、今のうちにたてておかなければなりません。
時代が変わる、世の中が変わる、社会が変わる、「そんなことは言われなくても分かっとる」という人は多いのですが、「一体どのように時代が変わるのか?」ということが分かっている人はきわめて少ないようです。
アメリカにインテル社というのがありますが、1980年代の後半は業界では12番目くらいで会社が危なくなることもありました。
当時は日本のNECが断然トップでした。現在はインテル社がシェアーの80%以上を占めて断然トップを走っており他の追従を許していません。
パソコンに使う半導体の主流は、当時IC(集積回路)でありLSI(大規模集積回路)でしたが、インテル社はICやLSIでは将来性がないと考え、マイクロプロセッサー(マイクロコンピューターの処理装置の部分)の開発に取り組みました。
その結果、現在ではシェアーの80%以上をとるに至ったのです。
企業が苦境に立った時に次の時代は何か?ということを考え、それに取り組んで勝利を収めたということです。
1980年代後半、アメリカの景気回復戦略は「情報スーパー・ハイウェイ構想」でした。
来るべき情報社会(デジタル時代)のために2兆ドル(約200兆円)を投じて、5年間でアメリカのすべての職場や家庭に光ファイバーケーブルを引き込もうという戦略です。アメリカはマルチメディア時代への取り組みが先行しています。
アメリカは時代の先を見ていち早く光ファイバーケーブルの敷設に取り組みましたが、日本は2011年にデジタル化などとのんきなことを言って情報社会への取り組みに後れを取っています。
アメリカの要求によって、日本は公園や下水道、道路の整備を強制されました。
日米構造協議の策略にはまって押しつけられたのです。
公園や下水道、道路の整備も大切なことでしょうが、情報社会が到来することが分かっているのに、公園や下水道、道路の整備は、優先順位で考えると、日本国民のためのインフラ整備はこれでよかったのかな?と考えざるを得ません。
これは日本の経済発展に水を差すためのアメリカの戦略だったのでしょう。
一部のゼネコンや一部の政治家がもうかったかもしれませんが、長期的戦略に立ってみた場合、果たして日本国民のためになったかどうかは疑問です。
麻生政権も鳩山政権も景気対策に多くの予算を費やしていますが、これらはすべて戦術(目先の現場主義)で長期的視野に立った戦略だとはいえないような気がします。戦略的予算は組めないのでしょうか?
仮に一息ついても日本経済の根本的立て直しができ、膨大な国の借金が解消するとは思えません。こんなことではまだ当分不況から脱出することは難しいのではないでしょうか。
欧米は苦しい時は先ず戦略(システム)を考えます。
米や、牛肉や、オレンジなどの自由化はシステム(ルール)を変えたのです。
かっての日米構造協議も経済包括協議もルールを変えるためのものであって、これが欧米の戦略なのです。
日本は戦略ではなく目先の戦術(現場主義)をとります。そして頑張るのです。
自動車の対米輸出が165万台以上は「だめ」ということになると、製造工場をアメリカに移しました。現場主義です。これは単なる戦術にしか過ぎません。
為替レートの問題でもプラザ合意で円高に誘導されてしまいました。
これによって円高不況になりました。これでは「たまらん」ということで生産工場を東南アジアに移した企業が続出しました。
日本の戦術主義とは現場で「頑張る」ことなのです。
リストラと称して3K(交際費、広告宣伝費、交通費)を削ります。
日帰りにしてグリーンを止め、タクシー券も廃止します。
コピーの枚数制限をし、賃上げを抑制し、雇用調整をし、残業を規制し、頑張り、じっと我慢して景気回復を待ちます。
無駄を廃止することは経営上大切なことですが、これらはすべて戦術です。
戦術で頑張る現場主義はすでに限界に達しています。
農業もそうです。若年労働力は今後減少の一途をたどります。
女性、高齢者、外国人を労働力として使うシステムが確立していないので、景気がいい時は人で不足となり、景気が悪くなるとしわ寄せを受けるのはこれらの方々です。(つづく)