モトローラ社の脅迫

1994(平成6年)211日、細川元首相がアメリカを訪問して、当時のアメリカ大統領クリントンと首脳会談をした結果、数値目標の設定で双方の主張が合意に至らず交渉が決裂しました。

 

アメリカは直ちに日米経済包括会議を中止し、包括貿易法スーパー301条の適用も辞さないと強硬姿勢を崩さず経済圧力の強化に出ました。

 

カンター通商代表の記者会見の模様がテレビニュースで放映されましたが、モトローラ社の携帯電話機(アナログ型)をかざしながら日本に対し、期限を切って回答を求めていた姿が今でも目に焼き付いています。

 

この件に関して、毎日新聞は315日付け朝刊の“経済観測”というコラム欄に次のような記事を掲載してモトローラ社を批判しました。

 

モトローラ社は、米国政府が包括協議で日本に数値目標を強要していた時に、取引先の移動通信IDO)に対し、来年3月までに基地局159局を造ること、同社の携帯電話(アナログ型)225,000台買うことを要求した。しかも期限を切って回答を求めた。

 

取引先に対するこのような仕打ちは常識では考えられない。暴挙ではないか。

植民地時代でも、宗主国の企業が植民地の企業に、こんな要求を突き付けることはなかったであろう。

 

通商代表部USTRの人が、わざわざ「包括協議と携帯・移動電話の問題は関係がない」と言明したのにも語るに落ちたということであろう。

 

米国のマスコミが、本件を日本市場の閉鎖性の問題だとして、モトローラ社の行動を不問に付しているのは意外である。

 

地球上のどこででもあれ、米国の企業が理不尽な行動をとれば、それを批判するのがマスコミの使命というものである。

 

本件は郵政省(当時)の対応のまずさによるところが大きく、米国側が郵政省を責めるのは自由だ。無いといった割り当て電波が後から出てくるなんて郵政省はなんという役所だろう。

 

しかし、経営の苦しい私企業に対し、政府を後ろ楯にして投資と購買を強要するのは許せない。

 

最終的に局面打開に苦慮した大株主が、IDOの増資に応じるなどして、基地局は大筋でモトローラ社の要求通りに建設し、携帯・移動電話の購入は見送ることになったとのことであるが、IDOの今後の経営はどうなるのだろう。

 

モトローラ社のトップに聞きたい。「貴社はどんな権利に基づいて、当初要求をしたのですか」「貴社のIDOに対する要求のやり方が日本人の反感を買うと思いませんか」「IDOに対する当初要求は、日米包括協議の進行とタイミングを合わせて提起しましたね。それは脅迫だと受け取られます。それもやむを得ないということですか」と。

 

その後、IDO225,000台の携帯電話機を買い取ることで決着していますが、これはすべてアナログ型電話機です。世界の流れはデジタルです。

ヨーロッパはすでにデジタル化しているし、アメリカも5月からは漸次デジタル化して行くと言うではありませんか。となればアナログ型電話機は日本だけしか売れない製品ということになります。IDOだって早くデジタル化したいのではないか?NTTはデジタル化しつつある)もしそうなら、この件に関して完全にモトローラ社は在庫処分のために政治を利用したのではないか? と疑われても仕方がないだろう。(つづく)